01,合図は静かに儚くて




「お前にしかできない仕事」
「おら、笑っていけよ。普段忍んでるんだからこういうときくらい笑ってくれって」
、この封書…消して誰にも捕られてはいけないよ」


「おれも、忍頭として残りたい…!!」



大砲の大きな音が響き渡る
若を見つめる俺は忍びとは思えない顔をしているだろう



「ダメだ、負けても我らは殺されない…しかし」
は殺されるだろう」


「ッ」



「お前は精神的に殺される…あの城の大将は忍びをそういう目でしか見ていない」
「やだ、それでも…!」


「現にお前以外の忍び隊は殺された!!」




若の大きな声に目を見開く
そうだ、もう周りに自分の先輩も同期もいない
だから忍頭なんだ…本当は入って間もないのに




…、私はお前の力をわかっている…どの忍びよりも優れていてどの忍びよりも優しい」
「若」


「だから、助けに来い」
「…?」





若が馬上から俺の頭をくしゃりと撫ぜる






「我が城を取り戻しに来い」
「そんで、俺らを助けろってこと」
「お前ならできる」




若の傍に居る兵たちが俺を囲み笑顔でそういう





「だから今は時を待て」
「……〜〜ふぁっ…うぅ"」
「泣くな…絶対にお前ならできる…」


「お前には仲間が少ない…、仲間を作り…」
「俺らを迎えに来い」




誰かが俺の背中を押す






「それまで、さよならだ」





その言葉に足を動かした








「はぁっはぁ…!」
「乱太郎!大丈夫か?」
「はっはぃぃぃぃ。伏木蔵ーだいじょうぶかあー?」
「スリルゥー」

「言ってる場合じゃないぞ!ほら、走って…どうわぁああ?!」
「えっ、ちょ、せんぱ…ひぎゃぁあああああ!!」




絶賛誰かに追われている私たちは持っていた薬草をばら撒けながら走っていた
のに!
目の前にいた善法寺伊作先輩が豪快にこけた


それを助けようと手を伸ばすが目の前に爆弾が降り注ぎ足を止める
伊作先輩の声がぎゃっ…と言ったきりプツリと途絶え生死の心配にすり替わってしまった




「あれが忍術学園の」
「3人ともまとめて捕えろ…学園の場所を割らせる」



「学園…!」
「ねらわれてるぅ〜?」




明らかに学園を狙っている発言に煙のなかでキョロキョロと視界を彷徨わせる
伏木蔵の手は離さずに当たりの気配を探る


煙が裂けたと思えば、目の前に忍者が現れ思い切り体を仰け反らせる
伏木蔵の「ふぉお!」と叫ぶが気にしちゃいられない





「そのまま倒れて」
「えっ」



誰ですか?と言おうと思ったけどそんなことより
優しいなにか暖かいものに包まれそんなことはどうでもよくなった
フッと意識を失う直前、伏木蔵の「きれい〜」が聞こえた気がした










さ〜ん、重たくないんですかぁ?」
「平気や、伏木蔵こそ、大丈夫なんか?」
「平気です〜さんは力もちですねえ」
「っふふ、」



体が一定間隔で揺れる
うっすらと目を開けると視界に善法寺先輩の寝顔が広がった




「えっえ!?」
「ああ、動かないで」
「だっ誰ですか!?」




というかなんですこのほのぼの雰囲気!!
前を向くと漆黒の忍び服




「せんせー?」
「え?」
「違うよ、乱太郎ー、さんだよ〜?」
…さん?」


「ああ、突然かんにんな?」
「伏木蔵…」
「うん?怪しい人じゃないと思うよ〜?」
「……そう」




私も歩く気力はない
なら、少しだけこの暖かい背中に全てを預けてみようと思う



****




「…んっ」
「これは、毒薬が作れんねや、護身用に作っといたる」
「ほんとですか!?凄いですね、さん」
「そないなことない、やってればわかるもんやで、伏木蔵…これええ香する花の袋」



懐にいれといたる
頭半分でそんな会話がぼんやりと聞こえてくる
なんだかそれがとっても暖かくてもう少しこのままでもいいかななんて思ってしまった



「学園長せんせーはなんておっしゃったのですか?」

「うん、俺のことは護衛忍者として雇ってくれるらしいで」



ガバッ!!


「「あ、伊作せんぱーい!」」
「おお、起きたか…熱はどうや?手持ちの解毒剤やったからちょいっと熱の副作用強かったかな」
「あ、もう…体が嘘のように…じゃなくて!あなた、誰ですか?」

さんで〜す」
さん?ッ!そういえば私たちどうやって帰ったんだい?」




あの強い忍者に追われていた
不覚にも意識を途中で失ってたわけだけど




さんが助けてくださったんです」
「そうだったんですか」
「伊作くん、がんばったなあ…全部2人から聞いたで」
「え」
「なあ、ほんま良い先輩もったっちゅーことや」




乱太郎と伏木蔵の頭を撫でるさんは慈悲に満ちた目で彼らを見ていた
なんだろうこの感じは、切ないけど




「甘い」
「ああ、そういえば伊作君…薬草の採取の途中やったらしいなあ」
「はい、でも逃げてる途中で捨ててきちゃって…」
「今度クスリを作ろう思うてて薬草採りに行きたいんやけど…伊作君」
「えっ」

「一緒に行ってほしいんや」




ふんわりと微笑むさんに胸のあたりが苦しくなった
なんでかはわからないけどさんが敬わしい感じが一気に迫り上げたのは間違っていなかった




「はいっ、ぜひ」





こんなにも単純に人に惹かれることができるんだなと




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