「兄」
初夏の風がそよぐなか、リンッと風鈴が鳴った
定期的に複数の気配が見え隠れし、兄が心配されているのがわかる
「沖田さん、兄は」
「ああ、まだ眠ってるでさァ」
「そう…ですか……あ、高杉があの辺りに居たのは…あの辺りでのいざこざを眺めるためらしいです」
「イザコザ?」
「ええ、なんでも万事屋の旦那の依頼に関係するらしいんですが」
「あ?」
そういえば、旦那…ガキつれて歩いてたな
思い当たる節に頷いて山崎を下がらせる
「おい」
次に入ってきたのは土方さん
見上げればタオルと氷水
ドカッと兄の頭側に座り
兄のタオルを変える
「何があったかは大体聞いた」
「えェ」
「…コイツの大概アホだからな」
兄の前髪を優しくわける手つき
「ま、今回はよくやったな…俺ら真選組の大事なアホだ…無理やり連れてかれるなんつーことされたら」
攘夷浪士共と本気で殺りあわないといけない
煙草に火をつける土方さんの顔を見てフッと兄に視線を向ける
「兄は俺のモノでさァ…誰であろうとやるつもりはねェ、俺が拾ったんだ」
「ーー…」
「あの日から、兄は俺の犬ですぜ」
拾ったあの日から
彼の砕けた心をセロハンテープのように脆いもので継ぎ接ぎしたのも俺
「んッ」
「!」
「…」
土方さんが手を離し兄の顔を覗く
金色の目がキョロキョロと焦点を合わせるように動いて笑う
「トシ、総悟」
「おはよう、兄」
「無事か」
「うん、総悟…ありがとな」
「いいでさァ」
「トシもごめん…」
ヘラリと笑うにハッと息を吐く
土方さんが兄の頭をゆっくりと撫でる
髪に手を差し込み兄の輪郭を撫でる
「ーーー?」
「あァ、心配した」
「うん」
ごめんねと笑った兄がまたゆったりと目を閉じた
『銀時…、銀時』
『んーむー』
『良いんですよ、…寝させて置きなさい』
『師匠』
『兄ィ』
晋助に腕を引かれギュッと抱きしめられる
どうした?と聞くまでもない
『なに、どこがわからないの?』
『ーーーここ』
指差すところは簡単な問題
ああもう可愛いなあコイツ
『此処は、レ点で返すから…』
晋助に一個一個教える
『』
『師匠』
師匠に撫でられた頭に上を向けば
師匠がフワッと俺を見て笑う
『綺麗な瞳ですね』
『…ッッッ!!』
顔を真っ赤にした俺にクスクスと笑う師匠
『』
『はい』
『もしこの先、私に何かあったら…、』
『…ーー』
『皆の背中はあなたが守りなさい』
『ーーーねぇ師匠』
『はい』
『もし、じゃあ俺に何かあったら…晋助のこと…お願いします』
『ーーーええ、貴方の守る者…すべて守って見せます』
『ありがとう、師匠…』
師匠の指を絡めて指切りをする
『けど』『でも』
『貴方の背中は私が守りますよ』『師匠の背中は俺が守ります』
『センセー……』
2人でハモッた瞬間、見えた銀髪に下を向く
『どうした、銀時』
『ーーー、高杉と喧嘩した』
『またかあ』
『アイツ、俺のまんじゅうとった』
『っふふ、それはいけないことですね』
『師匠、甘やかさないでください、銀時はさっき饅頭食べてました』
師匠をムッと見ればフフっと笑う師匠
『、』
『銀時?』
『さっきの約束守れよ』
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