29,潜入調査





「――ッ、ァう…ひっ」
「なに、もう限界なの?」



あれ、俺なんでコイツの下に組み敷かれてんのや




***



「ねえ、私…あの簪欲しい!」
「…、仕方ないな…その分、夜は楽しませてくれるのか?」
「…、もっもちろんよ!」



三郎に脇をド突かれて我に返って答える
ニヤリと笑う彼をド突きたい

こんな俺が女装をしてまでコイツと居るのには学園長の陰謀があって
任務として三郎と一緒に学園を狙う者が泊まっていると予測した宿に泊まる予定だ



「(で?怪しい奴というのは…このあたりで茶をしているのか)」
「(この先の餡蜜屋におる。このまま仲のええ恋人のフリをして入ろう)」
「(仲がいいのもフリみたいだな)」
「(そうとは言ってないやろ)」



矢羽根を介して会話しつつキッと睨む
そうすれば挑発するかのように三郎も俺を見る




「あ、餡蜜ッ!三郎さま…!わたし、餡蜜が食べたいわ!」
…、あまり引っ張るな…そういうところもかわいいけどな」


「(余計なこと言うんやないぞ)えっ、そ…んなこと…ッ」
「(顔が赤いぞ、惚れたか?) っふふ、冗談だ…。お前を見ているとからかいたくなってしまう」




ニコニコと笑いつつ、周りから仲がいいわねえと言われてしまった




「餡蜜デラックス1つ」
「……ぜんざい1つ」



かしこまりましたー、と女将さんが去っていく
ニコリと三郎に微笑まれ、負けじと俺もニコリ




「そんなに腹がすいていたんだな、悪いな気付けなくて(が払うんだぞ)」
「いえ、ただこういうのが珍しくて私一番上にある物をと(主人からの出費やし、かまへん)」



机の下で銭が入っている袋を渡す
その中身をチラリと見て三郎が一瞬目を開いた




「――、お待たせしましたあ!」
「わあ!ありがとうございます!」
「お姉さんたちかわいらしいからこのかりんとう、おまけしちゃう!」
「嬉しい!お姉さんありがとう!」

「あらやだ、お姉さんだなんて!彼氏さんもイケメンだからこれもあげちゃう!」
「め、めんぼくない…」
「っふふいいのよー。……さっきからお姉さんのこと見てる人多いから気を付けてね?」
「!」



去って行った女将さんを見て、三郎に何言ったんだ?と聞けば
なんでもない、と笑顔で返されてしまった




「(コイツしか見てなかったからわからなかったけど、確かに)」
「さぶろー?」
「…抹茶の粉…ついているぞ」
「!?」



三郎が急に唇の端を舐めてきて、本気でびっくりしました









「では、椿の間にご案内いたします」
「「………はぁ」」



ついた宿はとても格式が高いとこやったんです(後日談)
通された場所は広く庭も見える




「怪しい奴らはこの向かいの部屋に止まっとる」
「なら、ここでもあまり普通に過ごすべきではないな」
「ああ、さっき盗み見したんやけど名前がありきたりすぎや…」
「―――偽名か」
「たぶん、」
「ッチ…使えないな」

「けど、ありきたりな偽名を使うくらいや、そないに気張る相手でもあらへんやろ」
「そうだといいけどな、」
「ええやないか、少し休暇をもろうた思って過ごせば」
もな」
「おおきに、」



暫く三郎に今の戦の状況を地図を使って教える
少し驚いた顔で俺を見て、忍者してるんだな…なんて言われてドついたったけど




「ドクササコの忍者は凄腕らしいけど、どないなんやろうな」
「さあ、乱太郎たちは出くわしてるらしいけど」
「あの子たちってほんまにえらい人しかあわへんの」



この間も彼らが放浪者と話しているのを見たことがあって
話しを聞けばこいつら強運やな…と理解してもうたくらい




「もう日が暮れてきたな」
「そろそろ帰ってくるやろうか」
「どうだろうな…、今まで出ていたくらいだから夜は休むと思うが」
「もしかしたら夜の街に情報を得に行ったかもしれへん」
「あり得るかのせいだな」

「――、足音や…顔を確認しにいくで…白やったら手を握る、黒やったら腕に絡める」
「ああ、心得た」




目を合わせて頷く




「ねえ、三郎様…この後はどない致しましょうか」
「そうだな、の好きなところへ行くといい」
「夜ご飯には…そうねえどなたか詳しい方はいらっしゃらないかしら?」
「なら女将に聞いてみよう」
「そうね!」



下駄を履き外に出る
ちょうど角を曲がってくる女将さんと2人の客
一瞬目を細めてその顔を確認して三郎の腕に絡める



「女将さん…!聞きたいことがあるんですけど」
「こら、他のお客に迷惑をかけるんじゃない。申し訳ない」


「いえ、構わない…なあ?」
「ああ、大丈夫だ」
「めんもくない」



「ここら辺で、おいしい食べ物屋さんってありますか?」



わざと少し大きめの声で言えば女将さんがふわりと笑っていっぱいありますよーと教えてくれる




「わたくし、美味しいお酒がのんでみたいわ」
「…それなら、上手い酒飲み場所を知っているぞ」




願ってもない申し出に笑顔で振り返る
三郎もそう思ったのか、教えてくれるか?と驚いたように問う



「お兄さんたち、知っているのですか?」
「ああ、これから行こうと思っている所がな」
「(いいのか?教えて)」
「(見るからに一般人だ、構わないだろう)」



「「(聞こえてるなぁ)」」




矢羽根がガッチリ聞こえて完全に黒だなと
チラリと目を合わせれば三郎が前に出てくる




「なら、もし差し支えなければ場所まで一緒に案内してくれないか?」
「構わない。ねーちゃん可愛いしな」
「まあ!お上手!(煩わしいな死にさんか)」

「あと半刻したらここで待つ…良いか?」
「構わない。では失礼する…、挨拶を」
「はい、ではよろしくお願いします…では後程」

「ああ」




パタンッと間の扉が閉まり女将さんも頭を下げて立ち去る
部屋に戻り畳にストンッと座る





「下心丸見えだな」
「うん、あの矢羽根気色悪すぎてかなわんかった」
、一応…私から離れるな」
「そうする」




最初の矢羽根が聞こえてから
不本意だが自分を後で食べてしまおうという会話が繰り広げられていて
ほんきで吐き気がしてしもうた


「はあ」
「早く帰りたいな」
「全くや」




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