32,大好きなの




時々、思う



さーん!」
「おー、マラソンがんばれー」


一は組に笑えば嬉しそうに手を振ってくれる




さんんんん!!あのバカ共見なかったすか!?」
「かんにーん」
「もぉおおおおおお!!」
「俺も探しとくわあ」

「助かりますー!」




作兵衛が去っていく
ほら、こういうところ…簡単に背中見せちゃうところね




「平和…なんなあ」





自分の出身の村は、無くなり
城も今は俺の居場所ではない

実際に、主人がここにいるからと言ってもここは俺の居場所やない
ひとつ息を吐いて城下が広がる方向に視線を向ける



裏裏山の方で聞こえるクナイの音は5・6年生の実習の音やろうか





「…、若」






***




「…若」





呟くように聞こえた声にピタリと動きが止まる
一年は組の実技実習の気配を消した私と山田先生を見つけるという課題


いつもが居る場所まで来てしまったようだ
彼は木に寄り掛かって裏山の方を見ている






「―――」






そういえば、言っていたな。の本当の主人はダイチ城に囚われていると





「…――――おっ」
「?」





急にの気配が明るくなり視線を長屋の角に向ける
一緒に視線を向ければ





「あ!土井せんせーだ!!」
「げっ」
「え?」





一年は組の虎若と喜三太、きり丸があらわれ指を刺される
驚いたは私を見て目をパチクリとさせる





「半助さん、気配消してどないしたんですか?」
「いやっ、あの…」



「今、課題中でーす!」
「気配を消した先生方を見つけるのが課題でーす!」


「あらぁ?ホンマか、半助さん逃げないとヤバイんちゃう?」
「見つかったからもうだめです」




ガクリと肩を落とした私に喜三太が飛びついてくる
それを面白そうに笑うを見てさっきのの影は消え去っていた





さんもぎゅーっ!!」
「わあ!喜三太ー!ちょいとでっかくなったんちゃーう?」
「本当ですかあ?えへへえー」
「僕はどうですか!さん!」
「虎若も大きくなっとるでー、ほら、抱っこしにくいん」
「やったー!照星さんよろこぶかなあ!」
「しょーせー?」


「僕の家の凄い人です!」
「…ざっとやね」




虎若の頭を撫でるの顔がふわりと優しく微笑む





「虎若は、その人好き?」
「うん!大好き!!」
「そかそか、」





嬉しそうにに撫でられている虎若を見てフッとの表情に影ができる




さん?」
「っ!あ、堪忍堪忍、というかお前ら半助さんだけでええの?」
「どっちか片方でいいんだよぉー、僕と虎若は土井先生みつけたからいいのー」





の背中から覗き報告する喜三太
虎若はの腕の中で嬉しそうに微笑む




「半助さん、気配…消せてませんよ」
「あっ、そうだった…」





寂しそうなの顔がまた見えて、ふと考え付く





「…―――、よし、…!お前もこの課題のクリア条件にしよう!」
「え?」
「はにゃ?」
「わあ!それ面白そう!」





きょとんとする





「山田先生!」
「どうした?」




すぐに降りてきた山田先生にことを説明すれば
なるほど、とを見て頷く





「喜三太、虎若…皆に伝えてきてくれ」
「なにをですかあ?」




「今からの課題は、に抱き着いたものが合格!」
「え?!」


「じゃあ僕たちはもう合格〜?」
「僕なんて、抱きしめられてる!」





わあ!と喜ぶ2人に戸惑う
喜三太と虎若がギュウギュウとを抱きしめる





「わっ、喜三太こしょばゆっ…!」
「ほら、二人とも!いってこい!私と山田先生も一緒に言いに行くから」


「「はぁ〜い!」」



「では、逃げてくれ」
「えっ、ちょっ、半助さっ…!!」






戸惑うを置き去りにして気配を感じるは組の元に向かい
を抱きしめたら課題クリア!と伝えに行く


課題は嫌いなは組も、パァァァアと顔を明るくして走っていった









「な、なんや」




虎若と喜三太のぬくもりが残る中
唖然とみんなの消えた方角を見る
とりあえず気配は消さず、草陰に隠れる







さっきの虎若の言葉
しょうせいさんっちゅーんは虎若に好かれとるんやなあ

俺もゆうて、若のこと大好きで、組頭も大好きで



―――ー おれ、若のこと大好き!
―――ー 奇遇だな、俺も大好きだ!
―――ー あとねー、組頭も好き!
―――― おお!だそうだぞ、組頭ー!

―――― 影を大きな声で呼ぶとかお前らアホか?
―――― くみがしらあ!
―――― おーおー、…忍びの修業はどうしたー?
―――― っふふ、組頭大好きぃ!
―――― 俺も大好き…




とかいう過去も思い出して、すっかり落ち込んでしまった
若、元気かな…ちゃんとした生活は遅れているやろうか




「会いたいな、」





俺の唯一の居場所
取り戻せるはずの場所




「ふっ、ぁ…」





うわ、情けない…
早く帰りたい、あの人のところに早く戻れたら嬉しい
でもそれに比例して怖くなって
倒せへんかもしれへん
タソガレドキも手をなかなか出さないあの城を


俺一人で倒せるやろうかと





「あー!さんみっけ!」
「しんべヱホントー!?」
「本当だよ!さーん!」


「しんべヱ…!」




自分の胸に飛び込んできたしんべヱを抱き留める
やったあ!課題合格だあ!と喜ぶしんべヱ




「見つかってもうたか」
「―――さーん!受け止めてー!」




次に飛び込んできたのは乱太郎
流石にしんべヱを持ち上げたまま抱きしめることは無理で上半身に雪崩こんできた乱太郎を受け止めたまま草間に背中を打ち付けた






「みんなー!いまだああああああ!」





そんな団蔵の声が聞こえ
もふっ!と暖かい感覚






さんつかまえたあ!」
「あー!兵太夫ズルい!ぼくが一番に捕まえたんだよぉ?」
「ぼくも、課題クリア!」



「僕、こういう課題なら何回でもしたいなあ」
「私もそう思う!」




俺の胸の上で乱太郎としんべヱがそういえば俺もーときり丸が顔の横に来る




「こういう?」
さんを捕まえたりー」
さんに抱き着いたり!」



「俺らは組はさん大好きっ子っすから」
「けど、さんばかりに構ってるとさんに迷惑だよ、みんな」


「庄ちゃんってば冷静ねえ」
「〜〜〜〜っっ」





ダメだった
子供の体温とかタイミングとかあると思う
目の前にいた乱太郎、しんべヱを抱きしめる
わあ、と驚いた声も気にしない
二人の胸が顔に当たり体温をまた感じる

困惑する2人の胸にすり寄って






「おおきに、」
、さん?」




さん、泣いてるの?」
「おれ、の居場所…」




伊助の声にああバレてもうたならしょんないよなと開き直って




「無くなってしもうてん…」






こんな子供たちに聞かせることやないのに




「でも、」




―― さん!
――― さーん、つかまえたあ!




「(守りたい場所はここに)」
「――― さん、泣かないで」
「私たちはここにいるから」


「泣かないでください、さん」





庄左ヱ門の手のひらが俺の頭を撫でる
複数の手のひらの感覚が頭にまたきて





「僕ねー、さんが大好きなんだよ?」
「どうして、しんべヱ」
「あったかくてね、ほかほかしてね、お日様みたいでね。ぼく大好きー!」

「しんべヱ、奇遇だな!俺もさん大好きだぜ!」




―――ー 奇遇だな、俺も大好きだ!




「だからねー、さんが泣いてる理由がひとりぼっちってことなら」
「泣き損ってこと、無駄使いはするもんじゃないと思うぜ、」




きり丸の声が聞こえて涙があふれてきた





「僕もさん好きー!」
「私も私もー!」
「僕も好きです、さんは太陽みたいで」
「ぼくもー!」
「おれもー!」




「大好き!」





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