「また落ちない」
そんな声が上から降りかかり上を見上げる
喜八郎が落ち込んだ姿で降り立ってきたので肩を叩いて宥めた
「落ちひんわ、これでも元城仕えやで?」
「ふむ、なんでですかねえ。難しくしたと思うんですが」
「俺を落とすことができたら、喜八郎は完全体やなあ」
「うーむ、難しい」
「ゆっくり成長すればええんやって、」
「それでも悔しいのには変わりません」
「あほかそないに急に成長できるわけないやろ」
凹む喜八郎を手招きして縁側に隣に座る
「かわええなあ、若いっちゅうのはええなあ」
「え?」
「いっぱい吸収できるやん、スポンジみたいなもん」
「…さんはもう吸わないんですか?」
「うーん。もう使い古されたスポンジみたいなもんやからなあ」
お茶をすすると喜八郎からの視線
「さんは不思議な方ですね」
「なん?」
「僕を変だと思わない」
「うん、ここのみんな普通がおらへんかんな」
「それでもやっぱり変な目で見る人はいますよ」
「それは仕方ないやろ、人の許容範囲っちゅーもんがあるんやから」
「さんの許容範囲は?」
「んー、…人を見捨てたら俺の範囲外」
「…人を殺すのは?」
「理由によりけり無駄な殺生やったら範囲外」
「ふむ、さんには嫌われたくないから気を付けます」
「おや、デレたね。喜八郎」
「貴方の隣は土の中と同じ感覚だ」
「最高の褒め言葉やな」
喜八郎にそう言えばいつもの表情を少しだけ崩して俺に笑いをかけた
うん、やっぱこうだなきゃあかんな
「でもやっぱりさんには落ちてもらいたいです」
「精進するこったな」
へむへむの金の鳴らす音に喜八郎が立ち上がり
授業行ってきますと縁側を去って行った
夜も更けて忍術学園が静まるころ
俺は護衛忍者としての本格的な役割が起きる
「今日も異常なしか…町に近い割には平穏な学園やな」
「くん」
「土井先生やないですか」
「見回りご苦労様、どうだ?学園の方は」
「ああ、面白いですよ。ちゃんと上級生は俺を警戒してはるし…ようできた子たちですわ」
「いいことなのか、悪いことなのか…」
「土井先生は?こんな時間に…鍛錬ですか?」
「いーや、言いにくいんだけど…」
「ん?」
「六年生が疑い深くってね…くんは危険なんじゃないかってだから見張っててくれって」
「ほー、そんなんなら自分らでやればええのに」
「流石にそれは先生として止めたんだ」
「ああ、だから」
「悪いね」
「いえ、慣れてますから」
懐からクナイを取り出して塀の向こう側に投げる
暫くして何かの落ちる音に土井先生と目を合わせた
塀の上から音のするものを見ると足を押さえて蹲る忍者の姿が見える
「うん、こっからでると秀作くんが面倒なんよな」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「そうですかね」
下に降りて忍者を抱える
目を見開いた忍者に笑いをかけて塀に降ろす
「で?なんのようなん?ああ舌切ろうとしてもムダやで?」
「くん…」
「土井先生はほかにも間者が居ないか調べてきてくれはりますか?」
「あ、ああ」
「あと、夜なんで生徒に気付かれへんように」
「ああ」
土井先生が気配が良いところまで遠のいた瞬間
縄で縛られている忍者の顔に蹴りを入れ顔を足で踏みにじる
「喋らへんの?忍者なのに適格に情報を伝えられへんの?」
顔にまとってる布頭巾を剥いで現れた顔にスッと体温が下がる
「お前…、ダイチ城の忍頭だな…」
「…」
「わざわざ忍頭を寄越すっちゅーことは狙いは俺やな」
「…、さっきの学園の先生を遠ざけた理由はこれか…この空気は普通じゃ耐えられん」
「お前に教える義理なんてないで」
短剣で肩を刺せば叫ぼうとするのを口の中にクナイを入れ黙らせる
「お前…死にたくないんやな…?ならさっさと吐いて逃げたらええねん」
「…っ」
「ああもうはよ言いやって」
刺した方に取り出した練りからしを絞る
「ッ!!〜〜〜!!」
「俺の大事な練がらし…もったいない」
口に布を詰めまた叫びをさせないように止める
「…、んー、もしかして…俺の弱味を探しに来たわけ?」
「っ!」
「ほーへー、弱味…ねえ?」
髪を掴み上げ目を合わす
「そないなもん、当になくなってもうたわ」
塀の角に頭を放り投げ思い切りぶつけさせる
「帰れ」
瞬間に殺気を思い切り発しすぐにしまう
それだけで彼はビクリと体を揺らしよろよろと森へ消えて行った
「あほらし」
「なんだぁああ!今の殺気はあぁあああ!!」
「ギンギンに相手してやる!!」
「留三郎、お前は右だ…文次郎行くぞ」
「私も探そう…どうぁわ!!」
予想通りというか流石というか六年生の素早い行動に思わず笑みが零れた
というか伊作は大丈夫なんかな
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