42,名前を教えては




「タソガレ軍がダイチ城に!?」
「うん、がそうしろっていうからさ」



保健室、あの日からほぼ毎日来る雑渡毘奈門さんが考えるように首を傾げる
乱太郎、伏木蔵はまだ怯えた様に話すが



「何を考えてるんだ」
「きっと大地場風見を殺そうとしてるんだよ」
「こっころ?!」

「そういう奴だよ」
「どうして!」
「そうすれば、キミたちにもの城主にも危害が加わらない」
「…忍者隊のはなしですか」


「おや、知ってるの?」
「――さんに実習で出会ったらすぐに逃げろと言われ続けましたから」
「私も言われました、」
「僕もぉ」



ふぅむとまた悩む雑渡さん




「嫌な予感がするね」
「僕も嫌な予感がします」



薬箱を片付け雑渡さんを見れば、外を見ていて




「雑渡さんはタソガレとダイチの戦はいいのですか?」
「うん、行くよ…ただ…がここに居たらいいなーと思って寄っただけ」
「そう…ですか…、僕も実は雑渡さんが来たとき、さんが今どこにいるか聞けるかなと思ったんですが」
「ごめんね、」
「いいんです、今は動くなと言われてますし」
「ほお」


「早く、探したくてしょうがないのに」




俯く僕に雑渡さんの空気が一瞬気遣いに代わる
そうしているとバタバタと音が響いた



すぐに消えた気配と入ってくる気配
飛び込んできたのは留三郎で顔は真っ青になっている



「伊作!三年の神崎と次屋が行方不明にまたなったらしい…!!」
「え?いつものことじゃないの?」
「それが…!今回の三年の行った実習先のもっと裏山を一つ越えたところがダイチとタソガレの戦舞台なんだ…!」

「――――ッッ!」
「ぜっ、善法寺先輩」
「探さなきゃ…、」
「作兵衛が泣き腫らしていて、正気に戻るまで三年と四年にはここに居てもらおうと思う」
「うん、学園も守らないといけないし…」

「五年と六年で捜索を行う」
「わかった、乱太郎と伏木蔵はここで準備をしていて」



「「はっはい!!」」




ほら、最悪なことが起こり始めた







急いで走った
早く、早くとほかの忍びたちに馬を頼んである
そいつらに若たちを頼んで



大地場もすでに本陣に居るらしく、目の前で殺すのがとても苦難になるだろう




「…、五月雨…手筈は済んでいる殿たちも移動し始めた」
「――、そうか」
「しかし…、ひとつ…予想だにしないことがあって」
「?」


「お前のところの若は」
「若になにかあったのか」
「―――、走れない」
「!?熱でもあるのか、ご無理な時に…ッッ」
「違う!落ち着いて聞け!!」





ガッと肩を掴まれ前を向かされる
互いの殿を人質にされ、計画を縫ってきた仲間、
お互い目しか見えていないので表情も読み取りにくい




「逃げられないように、歩けなくされている」
「     」




言葉がでなかった
ガッとそいつの胸ぐらを掴んで距離を詰める




「どういうことだ!鎖なら壊せばいい!!縄なら解けばいい!!」
「違う、違うんだ…靭帯を」

「―――ッッ」
「靭帯を斬られている」





ふらりともたついた足はガクンッと枝から離れる
ハッとした彼に腕を引かれ腕の中におさまる




「落ち着け…、言うべきじゃないと思っていた…けど」




―――― には、黙っていてくれねえか
―――― しかし
―――― 迷惑はかけたくないんだ





「――、ッ五月雨!!」






木と木の間を駆ける
早く、一刻も早く着きたかった





「―――、ッッ」




戦の声が聞こえ、草間を抜ければすでに戦っている姿が見えた




「……、うぁ」





―――





若の声が聞こえる




――― 、お前は行け
――― 俺らは大丈夫だ




皆の声が聞こえる
…大丈夫じゃないやないか、じゃああの時行った時もそうだった?
俺に心配をかけまいと言わなかった?

そんなんちゃうやん




「そんなの望んどらんわ!!!」





ダイチの旗が見え足早にそっちに向かう
本陣の白布が見えた




「っ!誰だ!!」
「邪魔や」




目の前に憚った人間
クナイで首を一撃し、本陣に入る



「くっ曲者だ!」
「ああ、曲者やで…」



近づいてきた兵士を切り殺す
一瞬揺れた視界、息も上がっている気がする
脇腹も痛い




「なっ…なんだ貴様は!!」
「―――、大地場…貴様ぁあああああああああああああ!!」




目の前にその人物が見えた瞬間忍び刀を抜き取りソイツの喉元に走った





「お頭ぁあああ!!曲者を捕えまし…た」
「離せぇえええ!ここはどこだぁああ!」
「あれ、さんが居る」




ピタリッ
聞き覚えのある声
喉元にピタリと宛がったままの忍び刀

後ろを振り返れば、両脇に抱えられている左門と三之助




「――っ、なぁっ」
「よくぞやった…!!この曲者も捕えよ!!」
「チッ…!」




2人を抱える兵士を蹴り飛ばし二人をキャッチする
間合いを取り、とにかく引き返さなきゃ
どうしてここに居るんだという説教は後にして…

今冷静やない俺じゃあどうすることもできひん




「逃がすか…!!今そいつのことを""と呼んだ!!わしが欲している最高の忍びのはずだ!!」





両方捕えよ!!
叫んだ大地場に舌打ち


踵を返し戦場に飛び込み逃げ惑う
後ろからは大地場まで追ってきていて面倒だ


ああもう!




「左門!!三之助!!!」





降り立ったのは、青色の忍び服に緑色の忍び服
ハッと一番に目があったのは雷蔵だった



さんっ!?」
「えっ、さん!?!?」
「あっちだー!」
「あっちやない」




なんともまあ奇妙なコンビ
小平太がさん!と涙ぐませ、雷蔵もさーん!!と抱き着いてくる始末




「そないなことやってる暇あらへんで…この二人を抱えて森に逃げ込みや」
「えっ、」
「本陣におる奴らに追われてもうてん…はよ…逃げ…」





ドサッと音がする
ハッと俺らがそちらを見れば忍び服に身をまとった人間




「――、ダイチの忍び隊…」





フリーの忍者も雇っているダイチの城主
ニヒルに笑うのが口元が見えなくてもわかる

ドサリとした音は紛れもなくそこに縄で縛られている忍たまだ





「…悪い」
「捕まった…」




顔を伏せる留三郎と文次郎
三郎に長次、伊作もいる






…」






ゆっくりと名前を呼ばれ振り返ればダイチの城主、大地場風見の姿だ
そいつは忍者隊の一人に耳元でなにか言われニヤリと笑った




「取引をしよう」
「――ー、」

「お前がダイチに来れば全員見逃そう」
「なっ、なにを!」
!案ずるな!!」





仙蔵と伊作の声が響く
そいつはハッと俺を見て嘲笑し、のど元を触る




「さきほど、私を殺そうとしたが…どうした?忍びらしからぬ感情のようだったな
 悔しかったのか、 お前の城主がもう使えぬ者になったことが」



「「「「「ッ!?」」」」」



「足を斬られるとき、貴様には迷惑かけたくないと言ってな…、お前を捕まえるために靭帯まで斬ってしまった
 あいつはキチガイだ…それで貴様が見つからないのなら声だっていらないといった」




流石に、声は貴様を見つけるのに必要だったがな




「〜〜〜、ッぁ」
「お前はここに居る奴らを巻き添えにした上に城主までも使えないものにしたんだ!」
「――ーっ」
「その上、こいつらが殺されるのを見逃す気か?」


「ぐっ!」
「ちょっ、長次…!!」
「――、貴様…」




仙蔵が睨みつけるもそんなもの聞くわけわない
伊作が長次をかばって蹴られるのが視界に入って

もういやだ、そんな言葉がよぎった



誰かが傷つくのも
誰かが殺すのも




「――わかった」
さん!?」





2人を降ろせば、ギュッと左門の手が俺の腕を握る
それをやんわり外し小平太と雷蔵に渡す






「…、本日からお世話になります……」
「ふむ、よろしい…そいつらを森に縛って放り込んでおけ」

「はっ!」



さん!!」
「離せ…!!」
さん、どうして…!!」




雷蔵が伸ばす手をジッと見つめ彼らが背中を押されていく




「ーー、ただし、あの子たちに手を出したら…俺は喉を斬ります」
「大した宣言だな」
「ええ」




森の奥に消えた彼らを見て、目を見開いた三郎が視界に入った
!!と叫ぶ声、初めて聞く仙蔵の叫び声




「俺のことは、忘れて」




その言葉に伊作が目を見開く




ーーー って、拒絶するときって標準語になるんだよね、悲しいなあ




そんな雑渡さんの戯言をいま思い出してしまったのだから






ッッ!!」



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