「ッ!先輩たちが帰ってきたぞ!」
「三郎!雷蔵!」
待機していた、勘右衛門と八左ヱ門、兵助が近寄る
戻ってきた10人の面持ちが暗く
学園の門の前に着いた瞬間、雷蔵が崩れ落ちる
「うあっ、ぁああ…!」
「雷蔵…!?」
「怪我をしたのか…!?大丈夫か!?」
八左ヱ門が雷蔵を抱え肩をゆさぶる
朝の日差しがまぶしく照らす中
作兵衛が門を飛び出し2人を抱きしめる
いつもなら笑って悪い悪い!とか言う二人が反応を示さない
「…三之助?左門?」
「ーー、うう、うわぁあああああああんっ!」
「うおっ、左門!?」
「…」
「三之助まで、なに泣いてんだ!?」
「先輩…っ!」
滝夜叉丸が小平太の顔を覗き込むとボソリと何か小さな声で呟いた
「が、いなくなった」
「え?」
「が…、盗られてしまった」
「…どういう」
「ッ!」
『!?』
次に飛び出してきたのは見慣れない青年
両脇には喜八郎とタカ丸
足を全く動かせないのを見て、全員がああと納得した
「と、一緒じゃないのか…?」
「あなたが、の主人ですか?」
「ああ…喜一郎と申す、それより…は後にくるのか?」
「ーーー、」
心配そうに眉を顰める姿は確かにの主人らしくて
自分はいいから他人を守る、そんな人だろう
「申し訳ございません…」
「ぼくたちが、未熟だったから…!!」
「を…を守れなくて…!!」
あふれ出る涙を止められない
雷蔵がごめんなさい、とさんの前に膝をつく
それに続くように伊作が
申し訳なかったと跪く文次郎と留三郎、長次
「は、僕たちを守るためにダイチ城の忍びになりました」
三郎の言葉に事実を知らない全員がピシリと凍りずく
滝夜叉丸の嘘…でしょう、と呟いた声も大きく聞こえ
その言葉にこたえるかのように小平太が首を横に振るう
「…!!」
「あ、待ってください…さんは歩けないんですから」
「私はアイツに守られるためにここにいるんじゃない…!!」
「けど、今行っても…さんのダシになるだけです」
「ッ」
「それはここに居る全員に言えます」
喜八郎の言葉が重く感じる
「は、最後は僕を見てくれなかった」
雷蔵が思い出すのは自分の伸ばす手をみつめる
何も宿さない目に動かない表情
「いやだ、って叫んでもさんは見てくれなくて」
ーー 雷蔵
「優しく呼んでくれる声さえ聞こえなくて…ただ変わらないのは、守るために自分を犠牲にすることで」
いつでもそうだ、
吐き捨てる言葉はどれも後悔ばかり
言うのは過去のことで、今の未来にはさんが居ない
「さん、会いたい…」
「ーーうわぁあああああ!」
また泣き出した左門を抱きしめるのは三木ヱ門で
唖然としている三之助の手を握るのは作兵衛だ
『ーーー先輩っ!』
高い声が聞こえ門の向こうを見る
心配そうにかけよってきた一年に目を見開けば真っ先に喜三太としんべヱが仙蔵に飛びついた
「先輩っ!怪我したんですか?」
「大丈夫ですかあ?なかなか帰ってこないから心配したんですよ!」
「大丈夫っすか?」
「……、きり丸」
長次の前にきり丸が現れ膝をついている長次の顔を覗き込む
ボロボロと鳴いている雷蔵に寄り添うのは九作と怪士丸
「先輩、どうしたんですか」
「……、怪士丸…先輩たちを中に連れて行くぞ」
周りを見渡して九作が左近に目配せをする
それをみた左近も頷き三郎次を見れば、兵助の腕を引き歩かせている状態だ
「ーーー、伊作先輩」
「乱太郎…」
「大丈夫ですか?どこか痛いですか?…保健室はいつでも使えるようにしてあります」
「ーーー、乱太郎っ!」
乱太郎を抱きしめる伊作の腕の強さが尋常じゃない
痛いと呟こうとした乱太郎が伊作を見れば震えていた
「伊作先輩…、大丈夫」
「…」
「……、さんは」
まわりを見ると庄左ヱ門が頷く
横を見ればきり丸も頷く、しんべヱも頷く
二年生を見れば唖然とする上級生を目覚めさせ、
駆け付けた数馬先輩たちは次屋先輩たちを救護している
「私たちで助け出しましょう…、大丈夫です私たちなら」
その言葉にハッと顔をあげた伊作が乱太郎を見る
でも、と悲しい表情をする伊作に乱太郎が肩を優しくたたく
「大丈夫です、さんは私たちで絶対に助け出しましょう!!」
「おー!」
「おおおおお!」
『おー!』
その光景に思わず笑みを浮かべたのは伊作だった
「つまり、今のは完全にダイチ城の者ということじゃな」
「ええ…、私たちが見ていました」
「もともと、が狙いでしたから…」
「が手に入ればとりあえずはいらない…そういうことじゃな」
「おそらくは…」
さんと対面する学園長は真剣な面持ちだ
私たちも会議に参加しているが、さんの表情は硬いのがわかる
「アイツの居場所をもう二度となくさせないと思っていたのですが」
「…、お主が全部悪いというわけじゃないのだ」
「しかし、学園をこうして巻き込んでいるのも私の責任です」
「責任の話しはまた今度にしましょう…今はをどう助けるかを考るべきです」
「土井先生…、なにか策はあるのかね?」
「……、ええ、確実にを助ける方法があります」
「ーー、タソガレ軍は進軍中…、如何なされますか」
「ええい!!殺せ!!邪魔な奴はすべて暗殺してしまえばよい!!」
「はい」
その場を立ち去り薄暗い森に入る
タソガレ軍が侵攻するそこにたどり着けば立ちふさがるのは当たり前かと思う人物
「これ以上は進ませないよ」
「来ると思ってました」
「きみって相当阿呆だよね」
「なんのことかは存じ上げませんが…どいていただけませんか?」
「忍者隊をすべて引き連れてきてはい、どきますよーって言うとでも思った?」
「やはりあなたは敵に回すと面倒なタイプらしい」
「ーー、敵…ねえ」
忍び刀を取り出し雑渡さんの懐に入る
それをクナイで押さえられ力で弾き返される
木に止まり、周りを見ればタソガレ忍者隊の姿とダイチ忍者隊の交戦の様が見える
「面倒だ、タソガレ城主の首をもぎ取れば終わりな話なのだけど」
「そうはさせられないよ、私の給料はどこからでるの」
「ーー、興ざめだ」
「戦わないの?」
「無駄な攻防は兵士にまかせます、忍者は情報を確実に伝え、兵士にはできない殺しをするだけです」
ここで、目立つような戦いは不利益だ
吐き捨てるように言い煙幕を散らす
それを合図としっているダイチの忍者はについていくようにその場を去る
「組頭…!を放っておいていいのですか!?」
「ーーうん、今のはじゃないよ」
「はあ?」
「タダの器だ」
***
木々を渡りダイチに戻る
忍者隊があそこまで来ているとすれば
「ーー、お前たちは先に城に戻っていろ、私はあとで向かう」
「心得た…、無茶は禁物だぞ」
「ああ」
気配が完全に消えあたりの捜索を始める
タソガレ軍の鉄砲隊はこの城を狙うのならあの崖に砲台を置くだろう
「(それを食い止めれば)」
「ーーー、おっと!」
急に抱き留められた体に一瞬で冷えていく感覚
この匂いは利吉さんだ
「、じゃないか…ってその忍び服」
「邪魔…どいてくれないか」
「ちょっちょっ、待って!」
「着いてこないでください!」
「どうしたんだ急に」
「もう、俺に構わないでください!!!」
「ーーーはぁ?!まっ…!!」
カカカッとクナイを投げその場から離れる
利吉さんは追ってこない、きっと唖然と固まっているだろう
崖に向かえば案の定鉄砲隊の姿
忍び刀を片手にクナイを三本もう片方に
「ーー、数は数十」
チャキリと忍び刀の音が響く
一人の前に立ちクナイで動脈を切り落とせば、バディーを組んでいた片方が顔を真っ青にして叫んだ
「くっ曲者ぉおお!」
笑いたくなるくらい、悲しい気持ちになった
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